聞声悟道

今年も、あとわずかで年が暮れようとしています。

毎年大晦日には、全国の多くのお寺で「除夜の鐘」が鳴らされます。
中国の寺院の風習に起源をもつと言われるこの除夜の鐘は、いまや宗教や信仰という枠を超え、
新年を迎えるための大切な存在として、多くの日本人に、愛される行事となっています。
しかし、今年はその除夜の鐘を取り巻く状況が例年とは違います。みなさんご存知の通り、
ますますその勢いを増す「新型コロナウイルス」の流行です。

この一年、私たちは目に見えない脅威に怯え、言葉にできない不安に覆われ、まるでいつまでも
出口の見えないトンネルの中にいるような毎日を過ごしてきました。

年が明けても、まだまだこの状況が変わることはないかもしれません。メディアでは盛んに、
増え続ける感染者数をクローズアップし、「アフターではなく、ウィズ」
「この後ではなく、これからも」といい、人が集まることが自体が制限をされ、
私たちの日常生活のカタチがじわじわと変わろうとしています。

しかし、過剰な「不安」と「孤独」は「疫病」以上に危険なものであります。
この世界的な困難の時、できるうる限りの予防対策は必要でありますが、
どうか、ご家族、ご兄弟、お近くの方と助け合って、あるいは、地域に根差し門戸を開いている
お寺の私たち僧侶を遠慮なく頼っていただいて、共にこの国難を乗り越えましょう。

お寺では除夜の鐘を鳴らすとき「鳴鐘の偈」という偈文をお唱えいたします。

「三塗八難 息苦停酸 法界衆生 聞声悟道」

「この世の生きとし生けるものが、この鐘の音を聞いて、
苦しみから脱け出せますように、仏の道を歩めますように」

この願いが込められた偈文を、私たちは鐘を一つ鳴らす毎にお唱えし、礼拝いたします。
大晦日、もし参拝することができなくても、そのお寺のご住職の手によって鐘は鳴らされるでしょう。

不安な日々を過ごされている方、おひとりで過ごされている方、
故郷に帰省することが叶わない方、どうぞ、日本全国の、年の瀬の夜空に響き渡る、
鐘の音に耳を澄ませ、その願いに思いを馳せてみてください。

「三塗八難 息苦停酸 法界衆生 聞声悟道」

コロナは、人命にも、経済にも、大きな大きな被害を与えました。
しかし、こんな時だからこそ本当に大切なものが見えてくるのではないでしょうか。

 

来年は、みなさんにとっても、わたしにとっても、良い一年でありますように。
みなさん、どうぞよいお年をお過ごしください。