二本の古木

昨年、熊本県の球磨地方を襲った豪雨。記録的な大雨は多くの被害をもたらしました。
あれから一年が経ちますが、まだまだ復旧作業は進んでいません。
今も多くの方々が仮設住宅などで不安な生活を送っています。
先日、そこで一周忌の慰霊法要が執り行われました。そのとき訪ねたお寺の境内に、
高さが30メートル程もある大きな樹が立っていました。
樹齢は300年以上といわれるイチョウとモチノキで二本はまるで
一本の樹のようにして生えているのです。
注意深くみないと、二種類の樹である事に気がつかないほどです。
支えている木の根は四方に広がり、お互いの根が絡み合い
《倒れないように支え合っている》そんな印象を受けました。

以前読んだ本に《自立とは独立ではなくたくさん依存がある状態》
と書いてありました。一般的に“自立”とは
《他の援助を受けず、自分の力で判断し生きていくこと》
となっていますが、そうではなく
《自分というものを守る壁を無くし、多くの人と関わり共感しあうことが大切である》
というのです。

私は26歳の時、ご本山での修行を終えて地元に戻ってきました。
帰って間もない頃、地域の青年僧侶の集まりに誘われました。
最初のうちは、自分が知らない人たちと関わるのが嫌で参加を断っていました。
自分というものを守り、傷つけられることを恐れていたと思います。
しかし、熱心に勧めてくれる人の声もあり、やがて背中を押されるようにして
参加するようになりました。実際に関わっていくと楽しいことや、勉強になることもあり、
気がつけば自分を守りたいと思っていた“壁”は無くなり、
自ら進んで参加するようになっていました。そうして多くの方と関わっていく中で
《自分は多くのご縁によって支えられている》ということに気がつきました。
今では、悩み事を相談したり、多様な意見を聞く事が出来るこの集まりが、
私にとって欠かせない存在になっています。

“困難”という風が吹いても、“縁”という根をたくさん広げることで、
倒れずに自分を支えていくことができます。その縁の根を広げていくことで、
やがて他の根とつながり、お互いより強い支えになる関係性が出来てくるのです。
あのイチョウとモチノキは、そのことを改めて思い起こさせてくれました。
また、《この世はすべて縁によって成り立っている》
というお釈迦様のみ教えも身に染みて感じる思いがします。

世の中には、私以上に他人と関わるのをためらう方もいると思います。
しかし《たくさん依存があること》は決して悪い事ではありません。
一歩を踏み出してみましょう。またその一歩を踏み出すきっかけとなってみましょう。

二本の古木のように、私たちも縁を深めて互いに
支えあい感謝できるそういう世の中でありたいですね。

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