「てまえどり」
最近よくSDGsという言葉を耳にします。それは「持続可能な開発目標」とよばれ、
人類社会が持続可能な未来をむかえることができるように、
国際連合が定めた、二〇三〇年までに達成すべき十七の重要な目標です。
では、「てまえどり」という言葉はご存じでしょうか。
私はあるコンビニエンスストアでそれを見つけました。
もちろん空を飛ぶ鳥のことではありません。
「てまえどり」とは、食品ロスを目指すため消費者庁・農林水産省・
環境省が消費者側に呼びかける掲示物のことです。
そのお店の陳列棚には、
「すぐに食べるなら手前をえらぶ」「みんなで目指そう地球にやさしいお買い物」と
書かれたステッカーが貼られています。つまり、販売期限の迫った商品を
自分が率先して購入し、新しい商品を他に譲る。
そうして捨てられる商品を減らそうという食糧問題に関する取り組みです。
子供たちや孫たちの世代まで、世界全体の食糧を確保するため、
身近のすぐにできる世の中のためになる、
よい行いのひとつですから、自分にも出来ることとして私もそれを実践しています。
曹洞宗の教えには、坐禅の実践に限らず、社会全体や他者を思いやり、
さまざまな困難な状況にある人々に手を差し伸べ、
助け合って生きていくという菩薩行の実践があります。
そして、大本山永平寺をお開きになられました道元禅師は仏法者としてのあり方として、
我々が常に持ち続けていかなければならない大切な心がけとは、
本当の意味で人のためによいことをするということ、
それは「世間を捨て、自分の身を捨てること。」だと、お示しになられています。
ここで言う「世間を捨て自分の身を捨てること。」とは、
世間や現実を放棄し自らが世間との係わりを断つという意味ではなく、
日頃、ついつい思ってしまいがちな、自分ばかりが損をして、他者が得をするのではないか、
よいことをしている自分を人によく思われて褒めてもらいたい、
見返りを求めたり、期待をしたりするという思いや考えは一切捨てて、
次の世代、ひいては将来についても、人のためになるようなことをしておくのを、
本当の意味で人のためによいことをする、と道元禅師は言われるのです。
ですから「てまえどり」には、自己中心の考えは捨てて、陰日向なく、
正直に、人がいやがることも、つらいことも、自らが率先して行いなさい。という、
仏の心にしたがった教えが、この言葉の中にあるのだということを私は感じ取ったのでした。
月日はまたたく間に過ぎていきます。SDGsが掲げる二〇三〇年まで、あと何年でしょう。
二〇三〇年という目標はありますが、この目標に対してのみ特別の活動や実践をするのではなくて、
日々の生活の中においても、どんな些細なことでも、私たちは出来ることから一歩一歩地道に継続、
持続して仏の心にしたがった、世のため人のためになるようなよいことをしていけば、
自分の心によい癖がついて、さらに喜びとなり、心を豊かにしていくのではないでしょうか。