天上天下唯我独尊

4月と言いますと、仏教徒にとって大事な三大行持の1つである「花まつり」というものがございます。
花まつりとはお釈迦様の誕生なされた日で、それを祝う行持という事でございます。
お釈迦様はお生まれになって直ぐに7歩あるき、
右手で天をさし、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と宣言されたという逸話がございます。

このお釈迦様が宣言された「天上天下唯我独尊」という言葉から「お互い様」の心を学ぶ事が出来ます。
「いったい、この言葉のどこに『お互い様』が含まれてるんだ」と思われた方、いらっしゃるかと思います。
「天上天下唯我独尊」その意味は
天上天下つまり天の上にも天の下にも、唯我独尊つまりただ1人自分というこの命この人生は尊いものなんだという意味でございます。
簡単に言いますと、この世に自分という存在は1人しかいなくて、尊い人生を送っているんだという事でございます。
そう聞きますとますます「お互い様」というところから遠ざかったかのように思えますね。

熊本県が誇る観光名所の1つに日本一の石段というのがあります。
石段の数は3333ありますが、わたくし、時々こちらに趣味として登りに行っておりまして、
1段目から1番上まで50分台で登り切ってしまいます。
このタイムが早い方なのか遅い方なのかはわかりませんが、この私に対して後ろから追い越していく人もいれば、
私が前の人を追い越したりという事もあります。
ちょうど中間くらいの速さなのかなと思っております。
石段を登っていて後ろから追い越されると「負けたくない、悔しい」と思いながらもペースを上げる事もできず、
ただ先を行く人の背中を見つめる事しか出来ません。
逆に前の人を追い越した時は「どうだ見たか」などと勝利したような気分になりながら登っておりました。
しかし石段を登る目的は人それぞれでございます。
タイムを伸ばす為に登ってる人、体を鍛える為に登ってる人、あるいは風景を楽しんだり森林浴が目的だったりもします。
それに対して私1人が勝手に競争心を燃やしていたという事になりますけれども、
みんな自分のペースで、自分の目的の為に登っているという事でございます。
階段というのは登ったら今度は降りなければいけない。
ですので、すれ違った人達ともう一度すれ違う可能性があります。
追い越された人達にも、追い抜いた人達にも目的は違えども同じ石段を楽しんだ仲間として
すれ違う時に「お疲れ様でした」と声をかけて帰っていきます。

「天上天下唯我独尊」これは自分だけでなく、あの人にも天上天下唯我独尊、
この人にも天上天下唯我独尊、みんなそれぞれ1人1人に言える事でございます。
人間だけではない、命あるものは皆その命を一生懸命に生きているという事でございます。
自分というものは自分にとって大切な存在である。
だからこそ周りに対しても尊重しあって生きていく事が出来ればあなたの人生は仏として尊いものになっていくのではないでしょうか。

今の世の中を見ますと昔に比べて他の者に対しての警戒心が強まったかのように思えます。
だからこそお互いに尊重し合うお互い様の心が大切になってきます。
4月は花まつり、お生まれになったお釈迦様が宣言された天上天下唯我独尊の御教えに因んで、
まずはこの1ヶ月間を自分のこの尊い生き方を見つめる期間にしては如何でしょうか。