二通の手紙
私が、以前中学校で支援員をしていた時のお話です。支援員は、直接、教壇に立ち生徒に授業をおこなったり、生活指導をしたりすることはできません。しかし、授業中に手遊びやおしゃべりをしたり、席を勝手に立って、歩き回ったりする子供たちがいればなだめて落ち着かせ、授業が円滑に進むように指導をすることはあります。また、授業についていけず学習が遅れがちな生徒や、黒板の板書を上手に書き写すことが困難な子供たちに対して、補助や援助をして学習をサポートすることもあり、また、怪我や病気などで身体が不自由な生徒の支援や見守りなどすることも私たち支援員の仕事です。
日頃、私たちの注意や指示に、素直にしたがってくれる生徒がほとんどなのですが、ふざけたり、無視をしたりする生徒や、反抗して暴言を吐いたりする生徒も、中にはいます。一時、よく聞かれた「ウザイ」とか「キモイ」とか、あまり好ましくない言葉を吐いたりする生徒もいました。それでも、私は何を言われようと、どんな態度をとられようと、常にほほ笑み、優しく声掛けをして、根気強く生徒たちに接しました。この時期の子供たちは、成長期でもあり、多感な時期の中学生でもあります。それに加え、この時期コロナ禍で、様々な制限の中、子供たちは不満やストレスもきっと溜まっていたことでしょう。
そのような日々を送りながら、一年が過ぎ、職場を離任することになった別れの日、二人の生徒が私に手紙を手渡してくれました。一人は、男子生徒からでした。その生徒は、身体が不自由で病気がちな生徒でした。その手紙には、「一年間、授業についてくださり、ありがとうございました。いつも朝、身体の調子を聞いてくださったり、面白い話をしてくださったりしてくれて嬉しかったです。僕も、高校で勉強に頑張ります。笑顔でみんなに元気をあげる先生でいてください。」と書かれていました。もう一人手紙をくれたのは、女子生徒でした。「一年生のところに、たくさん来ていただきありがとうございました。困っている人を助けたりしていて、すごいなぁと思いました。家庭科の時も、私を頼ってくれて、とてもうれしかったし、がんばろう!と思うことができました。」という内容でした。
実は、この一年間、生徒への接し方や対応がうまくいかないときに、私はずいぶん悩んでいましたが、彼らのこの手紙を読んでこれまでの不安や悩みが消え去りました。なぜならば、笑顔で子供たちに接し頑張っている私の姿を見てくれていた生徒がいたのだということです。私の心は救われました。ですから、この二通の手紙は、私にとって大切な宝物となりました。
曹洞宗大本山永平寺をお開きになられました道元禅師は「ただまさに、やわらかなる容顔をもて」とお示しになられました。これは「どのようなときでも、柔和な態度で、他人に接するべきだ。」というお教えです。
たとえ、もし、あなたが今、人間関係でつらく苦しい中にあっても、自分の役割を人のために一生懸命に努め、いつも笑顔で人に接していく姿は、誰かが見ていてくれて、そしていつかあなたを応援してくれる人がきっとあらわれることでしょう。