『正しく見る』
新型コロナウイルス感染症の発生、全世界での蔓延により、私たちの生活は様変わりしました。感染症法の分類が五類となり、少しずつ以前の社会へと戻りつつあるようにかんじますが、外出を控える、人と人との距離の取り方、外出先でのマスクの着用など、まだまだ多くの影響を残しています。そのことによって、人と人、心と心の距離までもが離れてしまっているように感じます。一度離れてしまったら、以前のようには簡単に戻らないように思います。
また、新型コロナウイルス感染症によって、今までなかった偏見や差別が生じています。人と人との距離が離れやすい環境だからこそ、今、求められているのは正しいものの見方ではないでしょうか。お釈迦様は、八つの正しい実践として八正道をお説きになられました。その一つが「正見」です。正見とは、私たちの考え方や行動の基礎となる正しい見方です。私たちは、つい世の中を自分の都合よく解釈して、見てしまいます。それは、幼い頃から培った多くの経験、それに家族や友人、先生など周囲から受けた影響、自分の興味や価値観、自分自身の損得勘定などによるものです。人は客観的に見ているつもりでも、これらのフィルターを通して見てしまい、世の中を正しく見ることができていません。
例えば、この人は血液型がA型だから几帳面だ、あの人はB型だから大雑把だ、などと、その方々のことを見もしないで、知りもしないで判断したことはないでしょうか。これは、正しいものの見方とは言えません。私自身、正しいものの見方「正見」を心掛けているつもりでも、自分の目で確かめもせず、つい噂話や不確かな情報に心乱され、後悔することがありました。
また、自分が見ている世の中は、他の人が見ている世の中と同じでしょうか。経験や影響、環境、価値観は人によって違うのですから、世の中が違って見えて当たり前です。人は自分の世の中と、他の人の世の中は同じであると思いがちです。そのことが、偏見や差別、争いごとへと繋がっていくのです。
ですから、一人一人が、同じ見方ではない、違う見方もあると自覚し、正しいものの見方に努めれば、世の中は明るく変わり、いたずらに傷つけあうようなことは減っていくでしょう。自分自身も生きやすい世の中になります。互いに互いの見方を認め合えば、たとえどんなに実際の距離が離れていても、心の距離が離れることはありません。このような世の中だからこそ、正しいものの見方を心掛けていかなければなりません。
もちろん、正しいものの見方を身につけることは簡単ではありません。まずは一人一人が自覚し、心掛けることが大切なのです。もちろん私もその一人です。みんなで一緒に正しいものの見方を心掛けて、お互いを認め合い、心と心が通じ合う、より良い世の中を作り上げていきましょう。