利他の心

 

新型コロナウイルス感染拡大防止の為の非常事態宣言も解除され、ようやく日常が戻りつつあると思ったのもつかの間、
今度は記録的な豪雨により、熊本県南部を中心に甚大な被害がもたらされました。
また、そんな混乱を待っていたかのように全国各地で再びコロナ感染者がじわじわと増加を始めました。
「有為転変」の世の中とは言いますが、なんだかいつまでも出口の見えないトンネルの中にいるようで、不安な日々を過ごしているのは私だけではないと思います。

さて、こういった非常時には必ずと言っていいほど、根拠のない噂やデマが飛び交うものですが、今回のコロナ騒動でも実にいろいろなデマが、特にSNS上中心に飛び交いました。
例えば「トイレットペーパーが無くなる」ですとか、「お湯を飲むとウイルスに感染しない」ですとか、「漂白剤を飲めばウイルスが死ぬらしい」ですとか、
どれも一度ゆっくり立ち止まって考えてみれば分かりそうなものですが、増えつづける感染者や著名人の死者のニュースがデマの拡散を後押したのでしょうか。
以前よりはるかに簡単に手に入れられるようになった情報が、かえって私たちを不安にさたのかもしれません。

また、そういった不安に乗じた生活物資の「買い占め」や「転売」にも困りました。
私のいる比較的感染者の少ない宮崎県の田舎でさえも、店頭からはマスクが消えました。今ではある程度規制されたようですが、ある意味こういった非常事態下での私たち人間の愚かさを感じさせられました。

しかし、そんな中にあっても、本当に困っている人のために手を差し伸べる優しさを持っているのも人間であります。
今回のコロナ騒動に際し、九州各県の曹洞宗寺院の婦人会の皆さんが、より感染リスクの高い北海道の方々へ「手作りマスク」を送るために立ち上がりました。
その結果、きわめて短い期間だったにも関わらず、各県から延べ1500枚以上の手作りマスクが集まりました。中には一人で百枚以上作った方もいらっしゃったそうです。
ゴム紐や白糸などのマスクの材料さえも不足する中、本当に必要とする人にために、手元にあるものでこれだけのマスクを作られた婦人会の皆さんの優しさには何ものにも代えがたい尊さがあります。

仏教ではこういった、自分ではない誰かのための行いを、「他人」の「利益」と書いて「利他」または「利他行」と言います。
新型コロナウイルスの第二の流行が予想される中、またどこにいても頻発する自然災害の脅威にさらされる中、誰もが自分の身を守り、周りが見えなくなりやすいこんな時だからこそ、他人を思いやる「利他」の心を大事にしたものであります。